大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和27年(ワ)3848号 判決

原告 西川建設株式会社

被告 千代田化工建設株式会社

引受参加人 東京博善株式会社

主文

一、東京都千代田区神田鎌倉町七番の五及び二に跨る家屋番号同町七番の一二木造モルタル塗瓦葺二階建事務所一棟建坪六八坪二合四勺二階同坪が原告の所有であることを確認する。

二、被告は原告に対し、右建物について東京法務局台東出張所昭和二六年七月六日受付第九四八一号をもつて被告のためになされた所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。

三、引受参加人は原告に対し、第一項記載の建物の明渡をせよ。

四、原告その余の請求を棄却する。

五、訴訟費用は被告及び引受参加人の負担とする。

六、この判決は第三項に限り、原告において引受参加人に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、仮に執行することができる。

引受参加人において金三、〇〇〇、〇〇〇円の担保を供するときは、右仮執行を免れることができる。

事実

原告は「一、東京都千代田区神田鎌倉町七番の五及び二に跨る家屋番号同町七番の一二木造モルタル塗瓦葺二階建事務所一棟建坪六八坪二合四勺二階同坪が原告の所有であることを確認する。二、被告は原告に対し、右建物について東京法務局台東出張所昭和二六年七月六日受付第九四八一号をもつて被告のためになされた所有権保存登記の抹消登記手続をせよ。三、引受参加人は原告に対し、第一項記載の建物の明渡をせよ。四、被告は原告に対し、金二三五、二六〇円及びこれに対する昭和二五年七月二四日以降右完済まで年五分の割合による金員の支払をせよ。五、訴訟費用は被告及び引受参加人の負担とする。」との判決並びに第三、四項について仮執行の宣言を求め、その請求原因として

一、原告は建築請負を業とする会社であるが、昭和二三年一一月一〇日頃訴外国土建設株式会社(以下単に国土建設という)の注文によりその事務所として東京都千代田区神田鎌倉町七番地上に木造セメント瓦葺二階建ルーヒング張事務所一棟建坪六七坪四合一勺二階同坪(後に被告は主文第一項記載の建物として所有権保存登記をなす、以下完成せる右建物を本件建物という)の建築工事を、報酬は金三、六二六、八三〇円、契約成立と同時にその三分の一、建方完了の時に三分の一、工事完了の時に三分の一を支払う、被告が右報酬金の支払を完了すると同時に原告は被告に対し完成建物の所有権を移転し引渡をする約で、請負つた。その後、原告と国土建設との合意により、工事の設計及び構造を変更したため、これに応じて請負代金も昭和二三年一一月二〇日頃金四、三〇〇、〇〇〇円に、次いで同年一二月一五日頃金七、五〇〇、〇〇〇円に増額したが、その支払方法及び支払時期は従前どおりであつた。

従つて、国土建設は原告に対し、金七、五〇〇、〇〇〇円を、契約成立と同時にその三分の一、建方完了の時に三分の一、工事完了の時に三分の一を支払わなければならないのに、国土建設は請負代金として、昭和二三年一二月八日頃金二〇〇、〇〇〇円を原告に支払つただけで、その余の支払をしなかつたので、原告は昭和二四年六月中旬頃本件建物の建築工事を一時中止し(中止した当時における建築中の建物を以下未完成建物という)、留守番を置いて管理していたところ、被告は昭和二五年七月二一日原告の留守番を右未完成建物より退去せしめて自らその工事を完成し、本件建物について主文第二項記載のとおり被告名義の所有権保存登記をなし、次いで引受参加人は昭和三〇年九月二八日被告より、本件建物を代金一二、五〇〇、〇〇〇円で買受けてその引渡を受け、本件建物を占有している。

しかしながら本件建物は、前記のとおり原告がその所有の資材をもつて建築したものであつて、注文者である国土建設から請負代金全額の支払を受けず、未だ同会社に所有権を移転していないのであるから、原告の所有に属するのである。しかるに、被告及び引受参加人は原告の所有権を争うので、本件建物が原告の所有であることの確認を求める。

また、原告は本件建物の所有権に基いて、被告に対し本件建物について被告のためになされた前記所有権保存登記の抹消登記手続を原告に対抗しうべき正権原がないのにこれを占有している引受参加人に対し本件建物の明渡を求める。

二、次に、原告は、前項記載のように本件建物の建築工事を一時中止した際、その所有にかかる別紙目録記載の足場丸太、仮囲材、建築用資材等を建築現場に置き留守番をして管理せしめていたところ、被告は昭和二五年七月二三日及び二四日の両日ほしいまゝにこれを全部搬出処分して、原告の所有権を喪失せしめ、原告をしてその時価相当額の損害を蒙らしめた。

しかして、右足場丸太、仮囲材、建築用資材等の右滅失当時における価格は、別紙目録記載のとおり合計金二三五、二六〇円であつたから、原告は被告に対し、金二三五、二六〇円及びこれに対する損害発生の日である昭和二五年七月二四日以降右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

と述べ、被告及び引受参加人の主張に対し

一、本件建物の建築工事が、旧建物の残存部分を利用して行うものであることは認める。しかしながら、旧建物の残存部分は動産であるから、これを利用して未完成建物が建築されたからといつて、被告及び引受参加人主張のように旧建物の残存部分の所有者である国土建設が附合によつて未完成建物の所有権を取得することはないのみならず、旧建物の残存部分は原告が国土建設より本件建物の建築工事を請負うにあたり、その材料として使用するため国土建設より無償で譲渡を受けたものである。

また、国土建設が原告に対し、請負代金として前記のとおり金二〇〇、〇〇〇円を支払つたことは認めるが、その余の支払は否認する。しかして、原告が右金員をもつて未完成建物に使用された建築材料の一部を購入し、或は工賃の一部に充てたとしても、請負工事代金の一部支払に過ぎないから、国土建設がこれによつて未完成建物の所有権を取得することはない。

未完成建物の価格は争う、工事を中止するまでに原告が他より購入した材木代金だけでも金一、一〇九、〇〇〇余円に上り、原告は未完成建物を建築するため、金五、三五二、二六〇円の工事費を費消しているのである。

二、未完成建物が動産であるとの主張は争う。原告が本件建物の建築工事を中止した当時における工事の進捗状態は、既に基礎工事を完成し、梁、柱及び間仕切りの柱組全部を終り、廊下を張り、階段を設け、窓枠の切込をなし、屋根は雨除の下葺(とんとん葺)全部を了えて仕上葺の約半分を完成し、電線の配置を終つたもので、工事の全工程からみればその約七割以上に達し、未完成建物はすでに法律上建物として登記が許される程度に竣功していたものであるから、未完成建物について民法第一九二条の適用はない。

三、仮に、未完成建物が動産であつたとしても、原告は、その表入口及び建物内部に原告会社工事場なる表示板を、また、表道路側に原告会社名義の道路占用許可済の表示板を各掲示し、原告会社の使用人であつた訴外中山英明を居住せしめていたものであつて、被告が訴外前田文子より未完成建物をその敷地の借地権と共に金二、五〇〇、〇〇〇円という低廉な価格で買受けたことをも併せ考えれば、被告の占有の取得は悪意が少くとも過失があつたものというべきである。

四、しからずとしても、未完成建物は原告が昭和二四年九月頃訴外前田純夫に窃取せられた盗品であるから、原告は引受参加人に対し、民法第一九三条の規定に基きその返還を請求する。

五、損害賠償の請求について、仮に、被告主張のとおり原告が国土建設より支払われた工事金をもつて別紙目録記載の物件を購入したとしても、右金員は工事代金の一部支払に過ぎず、国土建設より特に材料費として支払を受けたものではないから、原告の所有というべきである。

また、未完成建物について述べたところと同一の理由により、被告の右物件に対する占有の取得は、悪意が少くとも過失が存したものというべきであるから、民法第一九二条の適用はない。しからずとしても、右物件は原告が昭和二四年九月頃訴外前田純夫に窃取せられた盗品であるから、右日時より二年間は原告の所有に属していたものである。

被告及び引受参加人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、答弁として

一、請求原因第一項中、原告が建築請負を業とする会社であること、原告が本件建物の建築工事に着手しその後これを中止したこと(ただし、工事を中止した時期は昭和二四年二月中である)、被告が本件建物について原告主張のとおり所有権保存登記をなしたこと、引受参加人が原告主張の日時被告より本件建物を買受けてこれを占有していることは認めるが、原告主張の日時頃原告と国土建設との間にその主張のような請負契約が成立したことは否認する。

以下述べる理由により、原告主張の未完成建物は当初から国土建設の所有であつて原告がその所有権を取得するいわれはなく、従つて完成せる本件建物の所有権が原告に存することを前提とする本訴請求は失当である。すなわち

(1)  国土建設は昭和二三年九月頃原告に対し、原告主張の敷地上に同会社の事務所を建築するため、その工事を口頭で依頼したことはあるが、原告主張のように本件建物の建築工事を一括して請負わせたものではなく、国土建設が原告に対し工事代金を支払う毎に右工事代金額の範囲内で原告が建築工事を施行する約であつて、その法律上の性質は雇傭契約とみるべきであるが、仮に請負契約であるとしても、本件建物の建築工事全体の契約が締結されたものではなく、基本的な予約に基いて国土建設が工事金の支払をする都度部分的な請負契約が締結されたものというべきである。従つて、以上のような契約の趣旨からすれば、工事の進行に応じて建築された建物は逐次国土建設の所有となつて行くべきものであつて、原告が未完成建物の所有権を取得するということはあり得ない。

(2)  また、本件建物の敷地上にはもと訴外博善株式会社所有の煉瓦造二階建の建物があつて、その敷地約九〇坪のうち七三坪五合は訴外渡辺順蔵の所有で博善株式会社が借地権を有し、残りの一六坪七合五勺は博善株式会社の所有であつたが、右建物は戦災を受けて一階の煉瓦の外壁と内部の間仕切り(以下、旧建物の残存部分という)を残しただけで焼失したところ、博善株式会社は昭和二二年五月訴外株式会社沼田組に対し、右敷地の借地権と旧建物の残存部分とを譲渡し、右株式会社沼田組は同年九月国土建設に対しこれを再譲渡した。そして国土建設が原告に依頼した本件建物の建築工事は、旧建物の残存部分を利用して増築、修繕するものであるところ、右旧建物の残存部分は土地の定著物として不動産であるから、原告が工事をなすに従つて旧建物の残存部分に従として附属せしめられた工事の結果は当然これに附合し、旧建物の残存部分の所有者であつた国土建設の所有となつて行くものであつて、原告主張のように建築工事終了後に原告から国土建設に本件建物の所有権を移転する余地はない。

(3)  更に、国土建設は原告に対し、未完成建物の建築に必要な材料購入費を含んだ工事費として、昭和二三年一一月三日に金五〇、〇〇〇円、同年同月中に金五〇〇、〇〇〇円、同年一二月中に金八〇〇、〇〇〇円、昭和二四年一月中に金一五〇、〇〇〇円、以上合計金一、五〇〇、〇〇〇円を支払つている。故に、原告が未完成建物の建築工事に使用した材料は、原告が国土建設より支払を受けた右金員を以て同会社に代つて購入したものであつて、注文者である国土建設の供給した材料に他ならないから、未完成建物は国土建設の所有というべきである。

(4)  仮に右主張が認められないとしても、前記のとおり国土建設は原告に対し、本件建物の建築工事費として合計金一、五〇〇、〇〇〇円を支払つているのに対し、原告が建築した未完成建物の価格は金一、〇〇〇、〇〇〇円に過ぎない。ところで、建物建築の請負契約において、請負人が建築材料の全部を供給した場合でも注文者が請負代金を完済するときは、工事の作成物は注文者に帰属すべき暗黙の合意があつたものと推定されるから、本件未完成建物は国土建設の所有である。

二、請求原因第二項について、別紙目録記載の物件が原告の所有であつたこと、被告がこれを全部搬出処分して原告の所有権を喪失せしめたことは、いずれも否認する。右物件は、前記のとおり原告が国土建設から支給された工事金をもつて同会社に代つて購入したものであるから、当初から国土建設の所有に属していものである。そして、国土建設はこれを未完成建物と共に訴外前田文子に譲渡し、被告は右前田文子よりこれを買受けて所有権を取得した。

仮に、被告が原告に対し損害賠償債務を負担するとしても、原告主張の損害額は争う。被告が前田文子より引渡しを受けたのは丸太一〇〇本(単価は三〇円乃至四〇円)、角材二〇本乃至三〇本(単価は一五〇円)、砂〇、三坪に過ぎないから、被告がこれを処分したことによつて原告に蒙らしめた損害は、金八、五〇〇円を出ない。

と述べ、抗弁として

一、仮に、未完成建物が原告の所有であつたとしても、右未完成建物は、本件建物の建築工事の全工程からみれば、その進捗状態は三分の一以下であつて、骨組は完成したものの屋根は風雨を凌ぐに足らず、未だ建物とはいえないから動産と目すべきである。ところで、被告は昭和二五年三月四日訴外前田文子から、未完成建物及び右物件をその借地権と共に譲渡を受けて占有するに至つたものであるが、その占有の始め平穏公然にして、かつ、善意無過失であつたから、民法第一九二条の規定に則り被告は原始的に未完成建物及び右物件の所有権を取得した。

二、仮に、右主張が認められないとしても、被告は未完成建物を買受けた後、これに工作を加えて本件建物を完成したものであるところ、完成した本件建物の価格は著しく未完成建物の価格を超えるものであるから、加工の原則により、加工者である被告が本件建物の所有権を取得した。

三、仮に、以上の主張が認められないとしても、原告は未完成建物の建築工事を中止して以来、右未完成建物を放置したまま適当な管理の方法や権利の表示を行わず、また、被告が未完成建物の建築工事を開始してからも殆んど本件建物が完成の域に達するまで、被告に対し何等警告を発しなかつたものである。かかる原告が、今更本訴において本件建物の所有権を主張するのは、禁反言の法則に反して許されないのみならず、権利の濫用というべきである。

立証として

一、原告は、甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一乃至六、第六乃至第九号証、第一〇号証の一乃至六〇四、第一一、一二号証の各一、二、第一三号証の一乃至四、第一四、一五号証、第一六号証の一、二、第一七号証を提出し、証人小林忠一郎、同飯田喜代作、同鈴木武義(第一、二回)、同小島武、同堀内正巳の各証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)及び検証の各結果を援用し、乙第一及び第七号証の成立は不知、乙第六号証の一乃至三がいずれも本件建物の写真であることは認めるがその撮影年月日は否認する、その余の乙号各証の成立を認め、乙第二号証の一乃至四はいずれも再発行にかかるものである、と附陳し

二、被告及び引受参加人は、乙第一号証、第二号証の一乃至四、第三号証の一乃至三、第四、五号証の各一、二、第六号証の一乃至四、第七号証(ただし第七号証は被告のみ)を提出し、右乙第六号証の一乃至三はいずれも昭和二五年四月頃撮影した本件建物の写真であると附陳し、証人前田純夫、同田子篤、同岡和田安利、同池田孝次、同藤田実、同中根秀(ただし証人中根秀は被告のみ)の各証言を援用し、甲第一、二号証第三号証の一、二、第六乃至第九号証、第一〇号証の一乃至六〇四の成立はいずれも不知と述べその余の甲号各証の成立を認めた。

理由

第一、本件建物の所有権確認、保存登記抹消及び明渡の各請求について

一、原告と訴外国土建設株式会社間の請負契約について

証人前田純夫の証言によれば、戦災前本件建物の敷地上には訴外博善株式会社所有の建物が存し、その敷地九〇坪のうち七三坪は訴外渡辺順蔵の所有で博善株式会社が借地し、残余の一七坪は博善株式会社の所有であつたところ、右建物が戦災により焼失し一階の煉瓦の外壁のみを残す状態となつたので、博善株式会社は右敷地の借地権と共に右旧建物の残存部分を訴外株式会社沼田組に売却し、次いで昭和二二年秋頃国土建設が、右旧建物の残存部分を利用して自己の本社を建築するため、株式会社沼田組より右敷地の借地権と共に旧建物の残存部分を買受けたことが認められ、また、原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一回)の結果により真正に成立したものと認められる甲第一、二号証、第三号証の一、二、証人飯田喜代作、同鈴木武義(第一、二回)、同小島武、同藤田実の各証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)の結果を綜合すると、国土建設は訴外小島武の仲介により原告をして旧建物の残存部分を利用してその本社の建築工事を請負わせることになり、昭和二三年一一月一〇日に原告より金三、六二六、八三〇円の工事見積書(甲第一号証)の提出を受くるや、これを諒承し右工事見積書記載どおりの建築工事を依頼するに至つたが、当時原告は国土建設を信頼すること厚かつたところから改めて請負工事契約書は作成しなかつたこと、そして右契約の締結にあたり、国土建設は原告が工事に着手する際右請負代金のうち若干の金額を支払い、残余の請負代金は特に支払の時期を定めず、同会社において資金の調達ができ次第逐次原告に支払う約であつたこと、そして契約締結の当初、原告は国土建設より取敢えず事務所として使用に堪える程度で足りるとし、可及的低廉に見積られたい旨要望があつたので、前記甲第一号証記載のとおり見積つて工事に着手したところ、その後国土建設より再三工事の設計及び構造の変更の申出があつたため、結局昭和二三年一二月頃原告は右工事の変更に照応した図面(甲第三号証の一、二)を作成して請負金額を金七、五〇〇、〇〇〇円に増額する旨国土建設に申入れその諒承を得たことが認められる。

被告及び引受参加人は、国土建設は本件建物の建築工事を一括して原告に請負わせたものではなく、国土建設が原告に対し工事代金を支払う毎にその金額の範囲内で原告をして建築工事を施行せしめる約であつたと主張するけれども、右主張に符合する甲第一三号証の二中前田純夫の供述部分及び証人前田純夫の証言は措信しない。もつとも、国土建設が原告に対し工事着手金を支払い、残金については特に支払時期を定めず、国土建設において資金の調達ができ次第原告に支払う約であつたことは前認定のとおりであるけれども、右は特別の事情のない限りいわゆる中間払(建築請負工事においては、仕事の性質と多額の費用を要するところから、注文者が請負人に対し仕事の中途において請負代金の一部を支払う事例が多いが、これは報酬の一部前払に外ならない。)とみるべきであつて、既成の個々の出来高に対する報酬として支払う約定であつたものと解すべきではないから、支払方法についてのこの約定は前段認定の妨げとなるものではない。他に前認定を覆えして被告等主張の約旨であつたことを認めるに足る反証は存しない。

二、未完成建物の所有権の帰属について

原告が本件建物の建築工事に着手し、その後右工事を未完成のまま中止(中止した時期について、原告は昭和二四年六月中旬頃と主張し、被告及び引受参加人は同年二月中と主張し、争いはあるがこの点はしばらくおく)したことは、当事者間に争ない。そして前記認定事実によれば、原告と国土建設との間に成立した本件建物の建築工事に関する契約は、当初から原告が本件建物の建築工事の完成を目約とし、国土建設は原告に対し本件建物の完成に対する報酬として一定額の請負代金を支払うことを約しているのであるから、通常の建物建築の請負契約と何等異るところはなく、従つて原告が建築工事を中止した当時における未完成建物の所有権が何人に帰属するかは、建物所有権移転の時期について特約の認められない(証人小島武及び原告会社代表者西川幸吉の供述中、右特約の存在を主張する部分は措信し難い)本件請負契約においては、専ら右未完成建物に使用された建築材料を請負人である原告が供給したか、注文者である国土建設が供給したか、によつて決すべきである。

そして、原告がその主張の経緯により、本件建物の所有権を取得したことは後記認定のとおりである。

被告及び引受参加人は、国土建設は原告に対し、工事請負の報酬金を支払う都度、その範囲内において工事を施行せしめる約であつたから、工事の進行に応じ建築されたものは逐次国土建設の所有に帰すべきものであると主張するけれども国土建設と原告との契約が被告及び引受参加人主張のような約旨ではなかつたこと前認定のとおりであるから、被告及び引受参加人の主張は失当である。

次に、被告及び引受参加人は、旧建物の残存部分は国土建設の所有であるところ、右は土地の定著物として不動産であるから、原告が工事をなすに従い、旧建物の残存部分に従として附属せしめられた工事の結果は当然これに附合し、国土建設の所有になつて行く旨主張する。そして、本件建物の建築工事が、旧建物の残存部分を利用して行うものであることは当事者間に争なく、証人前田純夫、同藤田実、同鈴木武義(第二回)の各証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第二回)の結果を綜合すると、本件建物の敷地上にあつた旧建物は戦災により焼失し、原告が本件建物の建築工事に着手した当時における焼跡の状態は、屋根及び天井は全然なく、一階の煉瓦造の外壁が約七割残り、内部は間仕切りの基礎が若干残つていたものの大部分は崩壊して土砂や塵埃で埋もれていたことが認められる。右のような状態において、旧建物の残存部分は到底独立の建物と称しえないことは明かで、土地の構成部分になつたものというべきである。しかし、さきに認定したとおり、原告が国土建設より本件建物の建築工事を請負うにあたり、右旧建物の残存部分を利用することが前提となつてはいたが、残存部分全部をそのまゝ利用できる状態にはなかつたのであつて、原告会社代表者西川幸吉本人尋問(第二回)の結果に弁論の全趣旨を綜合すれば、残存部分の利用にあたりその取捨選択は専ら原告の判断に委ねられ、原告において利用価値なしとする部分はその大小に拘らず、これを切除することを原告に許容したものであつて、結局国土建設は本件建築工事の資材として原告にその処分を一任し、これを無償で原告に譲渡したことが明かである。けだし、右旧建物の残存部分は土地の構成部分として、その土地の処分の効力は当事者間に別段の意思表示がなされなければ右旧建物の残存部分にも及ぶであろうけれども、右旧建物の残存部分はその敷地の経済的価値を毀損し或はその本質を変更しなければ分離できないものではなく、これだけを独立の物権の客体となし得ないものではないからである。従つて被告及び引受参加人が、旧建物の残存部分は依然国土建設の所有であるとし、これに不動産の附合に関する法則を適用して、未完成建物の所有権が国土建設に帰属する旨主張するのは失当である。

そこで、原告が未完成建物を建築するにあたり、何人がその建築材料を供給したかを判断するに、原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一回)の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第九号証、第一〇号証の一乃至六〇四、証人飯田喜代作、同鈴木武義(第一、二回)、同小島武、同藤田実の各証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)の結果を綜合すると、未完成建物はすべて原告が建築材料を選択しその計算において購入運搬し、これを使用して建築したものであることが認められ、右認定に反する証拠はない。しからば、他に特段の事情がない限り、未完成建物に使用された建築材料は、すべて請負人である原告が供給したものというべきである。ところで被告及び引受参加人は、原告が未完成建物の建築工事に使用した材料は、原告が国土建設より支払われた金員を以て国土建設に代つて購入したものであるから、注文者である国土建設の供給した材料に他ならない旨主張し、国土建設が原告に対し、工事代金として、昭和二三年一二月八日頃に金二〇〇、〇〇〇円を支払つたことは原告の認めるところであり、成立に争いない乙第四号証の一、二、第五号証の一、二、証人前田純夫の証言並びに弁論の全趣旨によれば、訴外会社は原告に対し、前記金員のほか、昭和二三年一一月三日に金五〇、〇〇〇円、同年一一月中に金三〇〇、〇〇〇円、同年一二月中に金八〇〇、〇〇〇円、昭和二四年一月中に金一五〇、〇〇〇円を各支払つていることが認められるから、(右認定に反する証人小島武の証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)の結果は措信しない)、結局国土建設は原告に対し、原告が本件建物の建築工事に着手してからこれを中止するに至るまで、合計金一、五〇〇、〇〇〇円を支払つていることになるが、国土建設が原告に対して特定の材料を購入する資金として交付した事跡は認められないから(かえつて、前認定のとおり原告が自ら建築材料を選択して自己の計算において購入したものである)、右金員の支払は、当初の請負契約に基く着手金及び請負代金の中間払いと解するのが相当であつて、原告が国土建設に代つて建築材料を購入したものということはできない。よつて被告及び引受参加人の右主張は失当である。

次に、被告及び引受参加人は、国土建設は原告に対し、合計金一、五〇〇、〇〇〇円の工事費を支払つているのに、原告が建築した未完成建物の価格は金一、〇〇〇、〇〇〇円に過ぎないから、未完成建物は注文者である国土建設に帰属すべき暗黙の合意があつたものと推定される旨主張する。ところで一般に建物建築の請負契約において、請負人が建築材料を供給した場合でも、注文者が工事完成前請負代金を完済したときは、特別の事情のない限り、右建物の所有権は工事完成と同時に注文者に帰属すべき暗黙の合意があつたものと推認されるが、この理は請負人が工事を未完成のまま中止した場合でも、同様のものと解すべく、すなわち、注文者が未完成建物の工事代金を完済したときは、建築材料は注文者が供給したものとみて、右未完成建物の所有権は工事中止と同時に注文者に帰属すべき暗黙の合意があつたものと推認すべきである。そして国土建設が原告に対し、原告が本件建物の建築工事に着手してからこれを中止するに至るまでに合計金一、五〇〇、〇〇〇円の工事代金を支払つたことは前認定のとおりであるから、原告が右工事を中止するまで、すなわち、未完成建物の建築に幾何の工事費用を要したか考えてみると、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第八号証、前記甲第九号証、第一〇号証の一乃至六〇四、証人飯田喜代作、同鈴木武義(第一、二回)の各証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)の結果を綜合すると未完成建物の状態は後記認定のとおりであつて、原告がその建築工事に要した費用は約五、〇〇〇、〇〇〇円を下らないことが認められ、右認定に反する証人前田純夫、同田子篤、同藤田実の各証言は措信し難く、また、乙第七号証は、中根秀が昭和三〇年末頃被告の依頼に基き、被告より与えられた乙第六号証の一乃至四の写真と本件建物の平面図とを基礎にして未完成建物の価格を評価したものであること証人中根秀の証言により明かであるが、右写真によれば外部における工事の進捗状態は概ね判別しうるけれども内部におけるそれは殆んど不明であつて、正確を期し得ないのは当然であるから、右書証は前認定を左右することはできない。

従つて、国土建設が原告に対し、未完成建物の工事費を完済したものということはできないから、国土建設は未完成建物の所有権を取得するに由ない。

以上の次第であるから、未完成建物は、原告と国土建設との間に成立した請負契約に基き、原告がその建築材料を供給して建築したものであつて、原告は未だ国土建設より右建築工事に要した費用全額の支払を受けていなかつたものであるから、原告の所有というべきである。

三、未完成建物について民法第一九二条の適用の有無について被告及び引受参加人は、未完成建物が原告の所有であつても右は動産であるところ、被告は昭和二五年三月四日訴外前田文子からこれを買受けて占有を取得し、占有の始め平穏公然にして、かつ、善意無過失であつたから民法第一九二条の規定に則り、被告は原始的に未完成建物の所有権を取得した旨主張する。そこで先づ、被告が占有した当時における未完成建物が果して動産であるかどうかについて判断する。

前記甲第八、九号証、第一〇号証の一乃至六〇四、証人田子篤の証言により昭和二五年春頃撮影した未完成建物の写真と認められる乙第六号証の一乃至三、証人田子篤、同飯田喜代作、同鈴木武義(第一、二回)、同小島武、同池田孝次、同藤田実の各証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)の結果を綜合すると、被告が占有を取得したと主張する昭和二五年三月四日当時における未完成建物の状態は、原告において、旧建物の残存部分である煉瓦壁に窓と出入口の部分を削りとり、その上に二階の骨組を建て、建物の内部及び外部は壁を塗る下地を完成し、屋根は下地を全部完成してその北側の半分以上はすでに鉄板を葺き終り、床、廊下、階段も最後の仕上げを除いて大部分が、また天井も壁を塗るだけの状態に完成し、二階の配線工事も終つていたことが認められ、証人田子篤、同岡和田英利の各証言中、右認定に反する部分は措信し難い。以上の状態における本件未完成建物は、すでに屋根及び囲壁を有し、外観上も取引上も土地に定着せる一個の建造物というべく、建物として不動産登記法により登記をなすに妨げない状態に至つたものであつて、すでに動産の領域を脱して独立の建物として不動産の部類に入つたものといわざるを得ない。

従つて、動産を対象としている民法第一九二条の規定は、本件未完成建物についてその適用はないものというべく、被告及び引受参加人の主張は爾余の争点を審究するまでもなく、この点において失当である。

四、未完成建物について加工に関する民法の規定の適用の有無について

被告及び引受参加人は、被告は未完成建物を買受けた後これに工作を加えて本件建物を完成したから、加工の原則により加工者である被告が本件建物の所有権を取得したと主張する。しかしながら、民法の加工に関する規定の適用を受け加工物の所有権の帰属が決定されるのは、動産に工作を加えた場合に限られるから、前記のとおり未完成建物が不動産と認められる以上、加工に関する民法の規定を適用する余地は更にない。

本件においては、寧ろ不動産の附合に関する民法第二四二条の規定が適用されるのであつて、未完成建物の所有者たる原告がこれを完成するために附合した被告の建築材料の所有権を取得するものというべく、これがため附合した被告が損失を蒙つたときは、不当利得として建物の所有者たる原告に対してその償還を請求しうるに過ぎないのである。よつてこの点に関する被告及び引受参加人の主張も採用の限りではない。

五、禁反言及び権利の濫用について

被告及び引受参加人は、原告は未完成建物の建築工事を中止して以来、未完成建物を放置したまま適当な管理の方法や権利の表示を行わず、また、被告が未完成建物の建築工事を開始してからも殆んど本件建物が完成の域に達するまで、被告に対し何等警告を発しなかつたものであるから、原告が今更本訴において本件建物の所有権を主張するのは、禁反言の法則に反し、かつ、権利の濫用であつて許されない旨主張する。ところで禁反言とは、一般にある者が作為または不作為によつて他人の信頼を惹起するに足る表示をなし、その他人が善意無過失で右表示を信頼して一定の行為に出たときは、表示者はもはや先になした表示と相異る主張をなしえないという英米法上の法則をいい、わが商法においてもこの法則の適用と認められる規定(例えば商法第一四条第二三条等)が存し、取引の安全のため重要な作用を営むものであるが、本件において原告が被告に対し本件建物の所有権を放棄する旨表示したことは何等証拠上認められないから、原告が本訴において被告に対し本件建物の所有権を主張しても、禁反言の法則に反するとはいわれない。また、証拠を検討しても、原告が何等うるところがないのに拘らず、被告及び引受参加人の蒙る損害や困惑を顧慮することなく、権利行使に名を藉りて本件建物の所有権を主張するものとは認められないから、原告が本件建物の所有権を主張するのを目して権利の濫用というのは該らない。よつて被告及び引受参加人のこの点に関する主張はいずれも採用し難い。

六、以上の次第であるから、本件建物の所有権は原告に帰属するものというべきであるところ、被告及び引受参加人が原告の所有権を争つていることはその主張に徴し明かであるから、本件建物の所有権の確認を求める原告の請求は、正当としてこれを認容すべきである。

次に、被告が本件建物について主文第二項記載のとおり被告名義の所有権保存登記をなしていることは当事者間に争なく、右登記は原告の本件建物に対する所有権行使の妨害となるものであるから、被告は本件建物の所有権者である原告に対し右登記を抹消する義務がある。

また、引受参加人が本件建物を占有していることは当事者間に争なく、原告に対抗しうべき占有権原について引受参加人は他に何等主張立証しないところであるから、引受参加人は本件建物の所有権者である原告に対し、本件建物を明渡す義務があるものといわなければならない。

第二、損害賠償の請求について

一、先に第一の二で認定したとおり、未完成建物の建築工事に使用された建築材料は、すべて請負人である原告が供給したものであるから、原告が本件建物の建築工事を中止した当時未完成建物の建築現場及びその周辺に存した足場丸太、仮囲材、建築用資材等(以下本件物件という)はすべて原告の所有に属するものというべきである。

二、そこで、右物件が動産であることは明かであるから、被告の即時取得の抗弁について判断する。

成立に争ない甲第五号証の一、二、第一一号証の一、二、第一三号証の一乃至三、乙第三号証の一乃至三、原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)の結果によつて真正に成立したものと認められる甲第六、七号証、証人前田純夫、同池田孝次、同岡和田安利の各証言によつて真正に成立したものと認められる乙第一号証、証人前田純夫(一部)、同小島武、同岡和田安利、同池田孝次の各証言並びに原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一、二回)の結果を綜合すると、原告は国土建設より本件建物の建築工事を請負つた後、その建築工事に着手し鋭意その工事を進捗せしめていたが、昭和二四年二月頃国土建設は訴外国土建設工業株式会社振出の額面合計金一、〇〇〇、〇〇〇円の先日附小切手二枚を原告に交付し建築工事の促進方を要請したので、原告も多大のぎせいを忍び促進に努力したが、同年三月中旬右小切手二通が不渡となつたため、原告はその頃より国土建設の誠意と支払能力に疑問を持つに至り、かつ、原告も建築工事の資金に窮したので、遂に同年五月中旬頃本件建物の建築工事を一時中止するに至つたこと、そして原告はその建築現場に箱番小屋を仮設し使用人であつた訴外中山英明を居住せしめて、未完成建物及び本件物件を管理せしめていたが、右中山英明は国土建設の代表取締役であつた訴外前田純夫に懐柔され、同年九月頃未完成建物と共に建築現場にあつた原告所有にかかる本件物件の占有を国土建設に移転せしめたこと、そこで国土建設は右前田純夫の妻である訴外前田文子に対する債務の弁済に代えて同人に未完成建物を譲渡したとして、未完成建物の建築許可名義を右前田文子に変更し、右前田文子は昭和二五年三月四日被告に対し、未完成建物及び借地権と共に建築現場にあつた本件物件を、代金二、五〇〇、〇〇〇円で売却し、その占有を被告会社に承継せしめたことが認められ、右認定に反する証人前田純夫の証言の一部は措信しない。

ところで証人飯田喜代作、同小島武、同藤田実の各証言によれば、原告が本件建物の建築工事を中止した当時は、未完成建物の周囲に設けられた板囲には原告会社が建築中であることを表示する立札があり、また、未完成建物自体にも原告会社の工事場なる立札を貼り、原告会社が施行中の建築現場なることは一目瞭然であつたことが窺われるが、成立に争ない甲第一三号証の四、証人田子篤、同岡和田安利、同池田孝次の各証言によれば、被告が未完成建物を買受けた昭和二五年三月四日当時は、未完成建物の周囲に設けられてあつた板囲は撤去せられ、建物の外部及び内部には原告会社の建築現場であることを表示するものは何等なく、このため被告は国土建設が土建会社であるところから、同会社の建築中であつたものを前田文子が譲渡を受けたものと信じ、かつ、神田区役所建築課や未完成建物の隣地にある博善社の専務取締役辻某等にも未完成建物の権利関係を質し別段疑点がない旨の確答をえた上で買受け、その占有を承継したことが認められ、右認定に反する原告会社代表者西川幸吉の本人尋問(第一回)の結果は措信し難い。しかして右に認定したような事情の下において、被告が本件物件を前田文子より譲り受けその占有を取得したのは、比較的安価で買受けたことを考慮に容れても、平穏かつ公然であつたことは勿論、前田文子の所有に属していたものと信じたことについて相当な理由があり無過失と認めるのが相当である。しからば、被告は前田文子より本件物件の引渡を受けるのと同時に、民法第一九二条の規定により原始的にその所有権を取得したものといわなければならない。

三、本件物件について民法第一九三条の適用の有無について

ところで原告は、本件物件は盗品であるから民法第一九三条の規定に基き、盗難の日である昭和二四年九月頃より二年間は原告の所有に属していた旨主張するが、同条にいわゆる盗品とは所有者がその意思なくして占有を失いたる場合を指称し、横領罪による物件は包含しないものと解すべきところ、前認定のとおり原告は、本件建物の建築工事中止後訴外中山英明を信じて本件物件の保管を委託し、前記認定のとおり中山から国土建設を経て前田文子に任意に引渡されたもので、盗品とはいいえないから、同人を信じたために生じた結果は原告が甘受すべきものであつて、善意無過失の被告をして原告の蒙つた損害を負担せしめることはできない。従つて、本件物件については民法第一九三条の適用はないものといわなければならない。

四、右の次第であるから、本件物件は被告が昭和二五年三月四日訴外前田文子より買受け占有を取得したときに、民法第一九二条の規定によつて原始的にその所有権を取得し、同時に原告はその所有権を喪失したものといわなければならない。従つて、原告主張の如く仮に被告が本件物件を建築現場より他に搬出して処分したとしても、これによつて原告の所有権を喪失せしめて損害を蒙らしめたものということはできず、爾余の争点を判断するまでもなく、被告は原告に対し損害賠償支払の義務はない。

第三、結び

以上のとおり、原告の本訴請求のうち本件建物の所有権確認保存登記の抹消登記手続及び明渡を求める請求は正当であるからこれを認容し、損害賠償の請求は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条第九二条第九三条を、仮執行について同法第一九六条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部行男 中田秀慧 柴田久雄)

目録

名称種類      数量    単価     小計

一 足場丸太長さ四間    一九六本   一六〇円 三一、三六〇円

二 足場板長さ一三、二尺   五〇枚   一六〇円  八、〇〇〇円

三 仮囲材板厚さ四分-六分  三〇坪   三〇〇円  九、〇〇〇円

四 仮囲柱33×33×10  三〇本   一三〇円  三、九〇〇円

五 丸太長さ10-15    六〇本    八〇円  四、八〇〇円

六 丸太長さ10 30×30 八〇本   一三〇円 一〇、四〇〇円

七 木材杉松板類       二〇石 二、〇〇〇円 四〇、〇〇〇円

八 木材タモ材         八石 六、〇〇〇円 四八、〇〇〇円

九 フローリング       一一坪 一、三〇〇円 一四、三〇〇円

一〇 番線           一巻         二、〇〇〇円

一一 鉄板厚板         五枚   六〇〇円  三、〇〇〇円

一二 亜鉛引鉄板〇、三糎   二〇枚   四〇〇円  八、〇〇〇円

一三 砂            七坪 四、五〇〇円 三一、五〇〇円

一四 仮設番小屋        三坪 七、〇〇〇円 二一、〇〇〇円

合計 金二三五、二六〇円

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例